学習する組織
高間邦男(たかまくにお)
光文社新書(2005年5月)
p.14 組織を改革するには、
他社の成功事例が自社にあてはまるとは限らなくなっている。むしろ頼りにする方が危険なのではないか。他社事例やコンサルの報告書は過去から学ぶこと。一般論ではなく、自社内部で創造すること。すなわち未来から学ぶことが大切。また改革は何をするかよりもどう進めるかが重要。組織改革は外科手術ではなく漢方。または庭師。じっくりと。
p.21 改革には一点突破型と構造改革型がある。
前者は顕在化しているニーズを取り上げるので承認を得やすいが、丁寧にサポートしないと途中でつまずくことあり。後者はどんなにクオリティの高いシナリオを描いても、組織メンバーが本気にならなければ効果は出てこない。何をしたいかということを、メンバーにじっくりと浸透させ、受容してもらうことが大切。
p.26 組織を変えただけでは成果は出ない。メンバー自らが気づき、行動できるように、人と人との関係と思考と行動を変えること。そのためには組織、メンバーが関心を持っていることを軽視しないこと。みんなの関心事をみんなで考える場を提供すれば、受け身の姿勢から主体的な姿勢に変わるチャンスが生まれる。はたして改革のポイントとメンバーの関心事が一致しているケースは多いのか。課題抽出があまりにも高い視座から行われていると、この間の乖離が大きくなってしまうのではないか。
p.29 良い組織とは、トップが良いということ。
改革はそのスポンサーの責任範囲内なら比較的やりやすい。トップが本気になること。他社がやっているからうちも、という程度ではうまくいかない。そしてトップの意向を受けて現場でメンバーに働きかけるチェンジエージェントが必要。チェンジエージェントはトップにおもねる人ではなく、待てよ、と立ち止まって観察できる人。仏教用語でいうところの「止観」。
p.40 プロジェクトチームの最初のミーティングではトップがそのミッションを明確に伝えること。大切なのは具体的な成果物のイメージがないならないということを明確にすることが必要。そしてありきたりの分析や施策にはノーを言い続けること。
p.42 あるべき姿と現状とのギャップを埋める。という方式をギャップアプローチというが、現代はあるべき姿がわからない時代。無理やり作ってもそれが現状の狭い発想から出ている限りは、改革などしなくても実現できるレベルのものである。また、その改革を行うと良い結果が得られる証拠を要求する組織はそこで改革が止まってしまう。前例をなぞるだけの組織になってしまう。繰り返すが、提示できるあるべき姿などは本当の解決につながらないし、問題を小さくしてしまう可能性が高い。何が問題かを複数の部署のディスカッションで明確にすること。
p.56 外部に対する感受性は、内部に対する感受性が高まるにつれて高まる。
p.64 現代の社員の価値観は、個人が働くことで組織や社会に貢献すること、個人と組織が一体となって成長していくこと。すなわち個人と組織の関係は、「どんな仕事をしたいか」だけでなく「どのような仕事の仕方をしたいか」が重要になっている。一人ひとりがスーパーマンになればよいが、そんな働き方をみんなは求めているのか。あるいは実現できるのか。
p.77 改革のためには、現場と人材育成と人事制度の3つが連動していること。一貫性があること。しかし海外企業と比べて日本企業のトップは研修に参加しない。研修の場で熱く語らない。経営全体を戦略的に捉えている経営者は研修を組織の方向性を合わせる重要な機会と位置付けている。こういう経営者のもとであれば前記3つに横串が通りやすいだろう。
成果主義
p.85 報酬の高さと社員のやる気・業績との顕著な相関関係はない。
p.87 多くの人はステークホルダー、組織、社会に貢献することをやりがいとしている。
p.90 業績と成果は違う。成果=業績+プロセス。成果主義といいながら業績主義に走る企業が多いが、業績主義は期中の変化に対応できないし、業務を個人に分割するためにチームによる協業的な仕事の進め方を阻害する。では業績とプロセスをどう評価するか。
p.104 職種の違う人を評価するとき、共通の基準を設けるハードアプローチはうまくいかないことが多い。組織的な話し合いによるソフトアプローチの方がよいだろう。これは具体的に誰が何に取り組んでいるかを日ごろから話し合い、理解しあえるようになるアプローチである。
p.112 行動評価を行うためには、組織にはどんな行動があり、どの程度のパフォーマンスが求められるかを決める必要があるが、第三者がそれを決めても全く役に立たない。自分たちのために、自分たちの仕事に合わせて、自分たちの言葉でつくること。
心の底から改革を進めるために
p.136 ゴールや目標設定にはメンバーが参画していなければならない。話し合いを通じて共有化し、内発的な動機を持つこと。話し合うときには話の内容がジャッジされるのではないかという不安感があると素直に話せず、そのミーティングは儀礼的なものになってしまう。メンバーの互いの暗黙知を共有するにはどうしたらよいか。それには経験を共有することが一番。相手の経験を理解することで、自分は間違っていたかもしれないという意識が芽生える。そうすると相手の話に真摯に耳を傾けるようになるものである。
p.158 社会構造主義的な学習。OJTと考えればよいか。
人材育成を現場にまかせていてはいけない。そして何を学ぶかではなく誰から学ぶかという人対人の関係まで落とすことが大切である。アクションラーニング。研修を一般的な教材で行うのではなく、現実の現場の課題を、現場外の研修の場でその解決策を練ること。そして現場でその解決策を検証し、再び現場外の研修の場でもむこと。これを繰り返すことが人材育成には効果的である。
p.174 改革にはプロジェクトチームのような組織を越えたチームが必須であるが、チームメンバーがどのような人間関係を築けるかがポイント。何でも恐れずに話が出来るようになるか。組織というよりコミュニティに近いものになるか。そう考えると、コミュニティをつくるのが得意な人、コミュニティ同士をつなげるのが得意な人(コネクター)は重要な存在で、その人を支援することが大切である。
p.178 メンバーでアイデアを出し合う時に、言いだした人が責任を取らされ、実際に動く羽目になってしまうと、よいアイデアは出てこない。メンバーが責任を取らなくてもよい形を提供すること。行動してくれる責任者がいれば安心してアイデアを出せるようになる。また完璧を求めるのではなくトライアンドエラー、プロトタイプによる検証などがよい。ある意味でのいい加減さが必要。
p.202 改革の目標
定量的な目標を設定するのではなく、達成された時のイメージを共有すること。そのイメージを得るために個々人がどんな役割を果たせばよいかを明確にすること。組織改革とは個々人の役割意識を変えていくことでもある。
2012年2月19日