吉野川によく見られる「沈下橋」。脇町近くの広々とした空間。
脇町の名物「うだつの町並み」。
日本三大秘境・祖谷渓谷。
2004年8月7日(徳島駅→牛島駅)、8日(牛島駅→貞光駅)、9日(貞光駅→池田駅)、10日(祖谷口駅→秘境の湯:祖谷渓谷経由)
この年は3月にぎっくり腰を発症。春から夏のレース予定をすべてキャンセルして治療に専念してきたが、ぼちぼち走れるようになってきたので、リハビリがてらジャーニーランを決行することとした。
どこを走ろうか?
実は前々から上流から河口までひたすら走ってみたい川がいくつかある。北海道の天塩川、長野県の天竜川、島根県の江の川、熊本県の球磨川などなど。その中で第一弾として選定したのが徳島県の吉野川。
もともと吉野川流域は旧石器時代と思われる石器が出土するなど、古くから人類が生活していた土地である。また関東に住んでいる者にはピンとこないが、地理的に京都・大阪に近いこともあり、中世には中央の権門勢家の荘園が多数存在した土地でもある。
特に室町時代から戦国時代にかけては、阿波の国の細川・三好両家が大いに活躍するのだが、その財源は、吉野川流域で産する「藍」だった。天然の青色染料である「藍」は、明治末に合成染料が登場するまでは貴重な存在だったが、阿波の国で産する「藍」を運搬する重要なルートが吉野川だ。
という基礎知識を「新全国歴史散歩シリーズ36 徳島県の歴史散歩」で仕入れていたこともあるが、実際に走り始めて、なるほど生産性の高そうな土地であることを実感した。
山だらけの四国にあって、吉野川流域は非常に開けた平坦な空間を形成している。徳島駅から中流の脇町を過ぎ、池田に至るまではほとんど上り坂らしきものが無く、また森や林のたぐいも無かった。
[8月7日 徳島駅→牛島駅]
徳島駅から走り始めたのがちょうどお昼時。吉野川橋で川の北側に渡り、川沿いの道を走るが結構交通量が多く、しかも路肩が狭い。走りにくい道ではあるが、他の道に切り替えても良い結果になる保障も無いので開き直って走る。
広々とした河川敷がどこまでも続いている。河川敷を利用したグランドで野球やサッカーを楽しむ人々は、どこに行っても同じ風景だ。などと周囲を楽しみながら走り始めたものの、その余裕も急速に失われていった。何しろ暑いのだ。35℃に達しようかという酷暑の真昼間。しかも数日前まで徳島地方は激しい雨に見舞われていることもあり、今日の照り返しで湿った空気が一気に吹き上げている。そして広々とした河川敷の常として木陰が全く無く、しかも道の脇に民家があるもののコンビニどころか自動販売機の姿は全く見かけられない。
気が遠くなり始めたところでようやく一台の自販機を発見。ミネラルウオーターのPETボトルから首筋に水をたらすとたまらない快感。息を吹き返したところで再び走り始めたが、逃れようの無い灼熱地獄が相変わらず続いている。
六条大橋で再び南側へ渡ると、そこから上流に向かってサイクリングコースが続いていた。下流にも続いているか確認できなかったが、南側(右岸)を走った方がよかったかもしれない。しかし、木陰もなく給水可能な施設が無いことは左岸と変わらず、我慢の走りが続く。
今日の目的地「牛島駅」へ向かうために河川敷を降り、交通量の多い道を走っていると、大きな花屋さんがあり、その駐車場に数台の自販機が並んでいた。牛島駅にはさほど遠くない位置だったが、もちろんそれに飛びついて、たてつづけに2本のPETを空にした。店のおねえさんに駅の場所を確認し、重くなった体をゆっくりと運び始める。20分ほどで牛島駅着。無人駅だった。
[8月8日 牛島駅→貞光駅]
昨日の反省から朝涼しいうちに走り始めようと、朝7時ちょっと前に牛島駅を出発。しかし快調に脚が動いたのも1時間ほど。またまた暑い一日が始まった。吉野川の南側・JR徳島線沿いの道は昨日とは打って変わり自販機が多く、給水には困らないが、逆に頻繁に脚が止まってしまう。
川田駅を過ぎたところで北側に渡り、今回の旅の目的のひとつである「脇町」に突入。前述のように、徳島特産の「藍」を運ぶルートが吉野川だが、この川の中流の重要な集散地がここ脇町。100軒近い豪商が軒を連ねた「うだつの町並み」が保存された通りを走りぬける。町並みに程近い吉野川には、高い堤防が築かれていたが、最盛期にはおそらく近くまで船が横付けできたのではないか。そんなことを思いながら、沈下橋を渡って南側に渡り、再びJR徳島線沿いへ。
ちょうど正午をすぎ、暑さはピーク。走るより歩きが多くなったころ、貞光駅着。比較的ちゃんとした(?)町並みの貞光だったが、駅前の商店にはご飯になりそうなものは置いていなかった。ああ。途中のコンビニで買っておけばよかった。
[8月9日 貞光駅→池田駅]
今日も早朝から走ろうと思っていたが、脇町のビジネスホテルの近くにはコンビニ無し。結局、ホテルで朝食をとってゆっくりと穴吹駅まで歩く。貞光駅に着いたのは9時半ごろ。昨日まで平坦だった道も、さすがにここまで山に近づけばアップダウンが目立つようになってきた。スタートが遅かったために暑さはあるが、木陰も少しづつ出てきたため息がつける。広々としていた吉野川の川幅も狭まった頃、池田の町が近づいてきた。しかし池田の町は吉野川から結構離れている。川の文化にどっぷりつかった町を期待していただけにちょっと残念。ともあれ徳島駅から池田駅まで、3日間かけてどうにか目標を達成できた。
そして徳島に入って初めて雨が降った。大歩危を見ようとJRで大歩危駅に向かったが、駅に着く少し前からとんでもない夕立。池田から大歩危まで列車を使ってしまった罰なのだろうか?
[8月10日 祖谷渓谷]
池田駅から祖谷口駅まで列車で移動。いよいよ今回の旅の最後の目的である祖谷渓谷に向かったのが8時ちょっと前。昨日までとは打って変わり、木陰の中を走る。景色も気持ちも快適。祖谷渓谷は平家落人伝説に富んだ日本三大秘境のひとつ。あとの二つは何だろうと考えているうちに、日本一危険なところに立つ「小便小僧」を過ぎ、いよいよ最終ポイントの「秘境の湯」に到着。しかし、この日火曜日は定休日だった。自分勝手に夏休みのつもりでいたが、世間では平日だったようだ。
2002年東北、2003年北海道と雨に祟られたため、思い切って暑くてもいいから南を選んだ今回の旅だったが、ここまで暑いとは思わなかった。やっぱり雨が降ってもいいから、来年の夏は涼しいところを走ることにしよう。