スタッフに借りた借りた「ポリプロピレン製」のロングスリーブシャツ

これで持ち物検査は合格。しかし、結局軍手以外は使わなかった。下に敷いているサバイバルブランケットと、ローソンで買った毛糸の帽子はもはや使うことは無いだろう。

 

12月2日 昼休み
左脚ふくらはぎに痛みが走った。2週間ほど前同じ箇所に痛みが走り、慎重を期して飲み会に参加してもアルコールは一切摂らずに節制してきた結果がこれだ。
ニュージーランドへの出発まであと2日、レースまでは5日。
国内のレースならためらわず欠場するくらいのタイミングの悪さだ。

初の海外マラソン。それにも増して海外へのプライベート渡航は実は初めてで、言葉の不安、まだ確定していない長距離バスの予約を現地で行わなければならない不安など、もろもろの不安を抱えていたが、今日の左脚の不安はすべての不安を消し去るくらいの衝撃だった。
今日は月曜日、レースは土曜日。
こうなったら、極力左脚に負荷をかけないように注意して、一発勝負でレースに臨むしかない。
と思ってみたものの、不安はますます大きくなっていく。

12月6日 レース前日
昨日夕方に到着したクイーンズタウンからバスでテアナウに着いたのが10時過ぎ。
周辺でちょっと時間をつぶして14時ごろパブリックホールという公民館のようなところで受付。話に聞いていたとおり持ち物検査を行ったのだが、意外なものにクレームがついた。KAPPAのポリエステル製のロングスリーブシャツだ。ちょっと薄すぎるというのがクレームの理由だ。

確かに事前に郵送された資料には「ポリプロピレン製のシャツ」とあったが、いくら探してもそんなものは見つからず、まあいいやと思って持っていったのがKAPPAのシャツだった。私が困っていると、スタッフのお兄さんが見本を持ってきてくれた。同じものを街のスポーツ店で買おうと思っていると、何とレース後に返してくれればいいと言ってそのまま貸してくれたのだ。普通のTシャツより厚手のシャツで、どうやら登山用品として使用されるものらしい。このお兄さんの名前を聞いたが、よく聞き取れず、ネームプレートも手書きのため読み取れなかった。レース後にちゃんと返せるのか、ちょっと不安になったが、しかしなんて親切な人だろう。

この日の夜19:30から、同じパブリックホールでレース説明会が開催された。
夜と書いたが、夏時間を採用しているニュージーランドの南部に位置するテアナウでは、まだ太陽がさんさんと降り注いでいた。とにかく夜21時をまわってもまだ明るい。
もちろん英語で行われたレース説明は予想どおり何もわからなかった。ただただ会場に集まったあふれんばかりの参加者の体格のよさには圧倒されるばかりだ。特に私の隣に座った人などは、正にランボー。もしかしたらとんでもなくレベルの高いレースに紛れ込んでしまったのでないだろうか?
レース説明は会場からの笑いが絶えず、デイバックやシュラフの抽選会が行われるなど、和やかな雰囲気に終始したが、頻繁に出てきた「ヘリコプター」の言葉に、「ああ、山岳マラソンでリタイヤすると、確かにヘリのお世話になるしかないだろう。お世話になるのは私かもしれない」と余計に不安を感じ、一人緊張してしまった。

ホテルに帰り、まだ明るい中、日本から持っていった湿布を左脚にべたべた貼ってベットに潜り込んだ。夜半、雨が強く屋根をたたき始めた。そういえば、今日一日この街にいたが、雨は降ったりやんだり、陽がさしたり、正に山の天気に近い。
この左脚はどこまでもつのだろうか。
いや、一歩たりとも走れないのではないか?
ますます強く屋根をたたく雨の中、不安な夜は過ぎていった。

 

続く