「上へ」というより「奥へ奥へ」と続く長い上り坂

植生の限界を超えたのか、一気に視界が開けた。まさに圧巻。

 

12月7日 レース当日
朝4時起床。
日本から持ってきたカロリーメートと昨日スーパーで買ったパンをかじり、5時ちょっと前にシャトルバスが出る場所に歩いていった。そういえば雨は降っていない。いや、それどころか晴れている。薄っすら明るくなり始めた空には星が輝いている。
「そうだ!南十字星はどれだろう!」
探そうとしたが十分な調査をしてこなかったことと、次第に明るくなる中断念せざるをえなかった。しかし、私にもはっきりわかったオリオン座は、日本で見るのとは上下逆転していた。
「ああ。今私は南半球にいるのだ。」
一人感慨にふけっていると、5時15分のシャトル出発時間に合わせて、ランナーたちが徐々に集まってきた。一応「Good Morning!」と声をかけると、いきなり「ダイ(死?)!」と言われた。ここニュージーランドの英語は少し訛りがあり、「a」を「アイ」と発音するそうだ。今日一日で何回となく聞くことになった「Good Day (ぐっダイ)!」という素敵な言葉を始めて聞いた瞬間だった。

改めてこのレースのコースを紹介すると次のとおり。
1.スタートからラクスモアハット
平坦な道を5kmほど走った後、標高1000mのラクスモアハット(山小屋)まで一気に駆け上がる。
約13km
2.ラクスモアハットからフォレストバーンシェルター
最高点1400mを超える本格的山岳コース
約10km
3.フォレストバーンからハンギングバレーシェルター
厳しい吹きさらしの中アップダウンを繰り返す。
約5km
4.ハンギングバレーからアイリスバーンハット
標高差約1000mを一気に駆け下りる。登りよりきつい勾配。
約5km
5.アイリスからモトゥラハット
ゆるやかなアップダウンを繰り返しながら森の中をアイリスバーン(渓流)沿いに走る。
約18km
6.モトゥラからレインボーリーチブリッジ
主に低湿地帯を走る。木製の遊歩道あり。
約6km
7.レインボーからフィニッシュ
森の中を走る。木の根が張り出しており、結構走りにくい。
約11km

このケプラートラックは公称67kmだが、実際には60kmちょっとらしい。
なお、高低差・距離などはレース前日にテアナウで購入した「KIWIFOOTPATHS TRACK GUIDE No.2 THE KEPLER」というすばらしいガイドブックによる。

スタート~ラクスモアハット
スタート地点はテアナウの街中心から5kmほど離れたコントロールゲートというトレッキングコースの出発点だ。かすかに雨がぱらつき、気温も少し低く肌寒い。どんなウエアで走ろうかちょっと迷ったが、結局昨日不合格になったKAPPAのロングスリーブシャツとランパンに決めた。そして、ウインドブレーカーなどの「持ち物」を愛用のデーバックに入れ、デジカメ・羊羹・飴を入れたウエストバックという出で立ちだ。

スタート。
一番後ろから、ふくらはぎを動かさないように慎重にロボットみたいに走り始める。一歩目は大丈夫。10mもOK。100m行けた。「大丈夫。走れる。」という気持ちが強まる。テアナウ湖を木陰に見ながら静かにトラックを進む。涼しい風が心地よい。走れるという喜びが沸いてきたころ、5kmの給水所を過ぎ、本格的な登りに入った。走れるところは走るが、あくまでも勾配のきついところは無理をせずに歩く。

そうこうしているうちに植生の限界を超えたのか、背の高い木が無くなり一気に視界が開けた。まさに草原の中を走っている感覚だ。昨日とは違い、今日、空は晴れ渡り、360°見渡す限りだ。ひとしきり感動していると、一人のランナーが猛スピードで追い越していった。どうやらスタート時間の遅い「ラクスモア往復コース」のトップランナーらしい。ほとんど全力疾走だ。やはりトップランナーはとんでもない人たちがいるようだ。

目の前の山をぐるっと回ると山小屋が見えてきた。ラクスモアハットだ。
ここで再び持ち物検査が行われたが、結構いいかげん。
このとき、スタッフから意外な事実を聞いた。もうひとり日本人が参加しているようだ。しかも女性。はるか前を走っていると教えられた。誰だろう。帰ったらインターネットの成績リストで確認してみよう。

 

続く