ケプラートラックのハイライト。日本では「危険!立入禁止!」になりそうな吹きさらしの中を走る。

 

ラクスモアハットからアイリスバーンハットへ
ラクスモアハットを過ぎると、本格的な山登りに入った。風が強く吹き付ける。他のランナーがウインドブレーカーを着込む中、私はKAPPAのシャツ1枚で走り続けた。何も昨日「薄い」と言われ不合格になったので意地を張っているわけではない。本当にこのシャツが風を防いでくれ、全く寒さは感じないのだ。
逆にこの強風は開放感のある、とても日本では体験できないほどの野性的なトレッキングを満喫させてくれた。初の海外マラソンにこのレースを選んでよかった。そう思わせてくれた。
小さなピークにある「フォレストバーンシェルター」「ハンギングバレーシェルター」を通り過ぎると、いつしか前にひとり、後ろにひとりと、3人の固まりになっていた。特に後ろのランナーは私が日本からきたことに興味を持ってくれて、シェルターでがんばってくれているスタッフにやたらと紹介してくれた。丸裸の尾根から左手はるか遠くに湖が見えた。マナポウリ湖だ。あそこまで下るのだ。と教えてくれたのも後ろのランナーだった。

下りが始まった。
実はこの下りが一番恐ろしかった。左脚ふくらはぎにとって登りよりはるかにきつい。後ろのランナーにコースを譲ろうとしたが、先に行けといって聞かない。幸い前のランナーの下りのペースが私にあっていたので、結構無理せず下り続けた。前のランナーが私に道を譲ろうとしてくれたが、これは固辞した。自然3人がぴったりと並んで下り続けることになった。ジグザグに下るこの道は、路面がきちんと整地されているため脚への負荷は思いのほか少ない。

いつしか植生が変わり、背の高い木が戻ってきた。脚的には快適な走りが続いたが、困ったのは前後のランナーが下っている最中、ひっきりなしに会話を続けていたことだ。時折私にも話し掛けてくる。うまく会話になるときと、まったくとんちんかんな会話になるときがあったけど何とかやりすごせたようだ。しかし、この下りは延々と続く。どこまで下るのかと不安になったころアイリスバーンハットのエイドが見えた。陽気な女の子二人が歌を歌って迎えてくれた。

しかし、その和やかな雰囲気とは不調和に聞こえてきたのが「Half Way」という冷たい言葉だった。

 

続く