「応援したくなる企業」の時代
博報堂ブランドデザイン
アスキー新書 2011.6.10

第0章 “買わない”のは本当に不景気のせいか
第1章 「ターゲットにモノを売る」というまちがい
第2章 「差別化のポイントはどこ?」という不見識
第3章 「ニーズはなんだ?」と問うあやまち
第4章 「勘でものをいうな」がもたらす損失
第5章 「どんなアウトプットが得られるんだ?」と問う不利益
第6章 「下から意見が出ない」という勘ちがい
第7章 「仕事にプライベートをもち込むな」という非常識
第8章 「応援したくなる企業」の時代
目次タイトルを見れば本書が何を言わんとしているかわかる。

p.33
『企業にはびこる不可思議前提。
企業と生活者は対立概念である
競合商品に対して差別化すれば売れる
ニーズをつかめばモノやサービスは売れる
言語や数字こそが合理的である
プロセスはあらかじめ決めておくものだ
組織系統には上下の関係がある
仕事とプライベートは別であるべきだ 』

p.251
『前提となっているフレームをはずして、少し自由な視点でいまの状況を見つめることができれば、たったそれだけで、違った解決策が見つかることもある。そしてどの選択肢を選ぶかについては、数字から分析した市場の大きさだけでなく、その企業が掲げる理念と「私は、自分たちは、こうしたい」という強固な意志にもとづくべきだ。』

今、商品が売れない
消費者は不十分なところがあるから商品を買わないのではない。あらゆる企業がしのぎをけずった結果、市場にはほとんど差異が無くなった似通ったものが次々と発売され、消費者はほとんど商品に興味が沸かなくなったためである。企業の目的は利益の最大化ではなく人々の幸福や満足を目的とすべきである。そして一企業でそれを創るのではなく、企業と生活者が共創することが大切である。これまでは、新製品=良いものという共通認識があり、ビジネスの主導権を企業が握っていたが、現代は既に生活者主導社会に移行している。

今、商品が売れない
企業は買わせるという発想を捨てること。またひとたび商品を世に出したら、企業は自社のブランドといえどもコントロールできなくなることを心得るべきである。それは、生活者は企業発の情報よりもむしろ仲間同士の口コミを重視しているからである。ブランドの価値をコントロールしているのは今では企業ではなく生活者がつながったコミュニティである。この状況で企業が行うべきことは、コミュニティの一員となり一緒にモノを創っていくことである。モノを売るから仲間を創るという発想転換。ただし、企業は生活者との関係をもっとフラットなものと心得て、売らんかなという姿勢を無くさなければコミュニティには参加できない。
B to C → B from C → B with C

今、商品が売れない
他社との比較やケーススタディから始めると、初めからフレームワークを決めてしまうことになり、最終的には微差との闘いになることが確定している。ここに陥らないためには新しいフレームワークをつくることが必要である。自社が今所属している業界のくくりをそのまま踏襲すべきかをきちんと考えるべきである。ただし奇をてらっただけに陥らないように気を付けなければならない。業界の枠を外して、他業界にこそ学ぶべきである。

今、商品が売れない
改善すべき点をすべて改善しても商品が売れるとは限らない。むしろ生活者は必要以上にすり寄ってくる企業は評価しないものである。あるフレームの中で競合との差別化をはかる相対的アプローチではなく、自社の明確なビジョンに基づく絶対的アプローチが必要である。ブランドに対する共感は、生活者のニーズや生活者に与えるベネフィットとは関係ない。むしろ宗教にも似たスピリッツに関わる関係である。企業は強い想いを持って共感できる商品を創ること。一貫したビジョンを持ち、そのビジョンが生活者より前に従業員の共感を得ていること。課題は小手先では解決しない。

今、商品が売れない
生活者はもはや欲しいものを自覚していないので、うわべだけの調査を繰り返しても信頼できるデータは集まらない。なにしろ言語化できない想いの方が多いのだから、数値や言語にできず抜け落ちたものの方が重要なことが多いのではないか。話せばわかると思うのは間違いで、実は言語によるコミュニケーションは理解されていないことの方が多い。技術系、企画系、営業系の間のコミュニケーションは、同じ単語を使用していても、実はつながっていない。もっとも社内での言語コミュニケーションを完璧なものにしてもそれはあまり意味がない。生活者は言語による論理的な説明をされてもその商品を評価するがは疑問である。生活者は論理よりも商品の背後にある企業のストーリーと、自分の生活ストーリーとの関係・連動性でその商品を評価するのである。

今、商品が売れない
初めからアウトプットが明言できるようなアプローチではイノベーションは起こせないし、直面している問題の本質をとらえていない可能性すらある。初めから固定したプロセスで考えるのをやめて、不完全でもプロトタイプをつくり、どんどん変えていくこと。従来のソリッドプロセスではなく、フレキシブルプロセスに変えるべきである。今日では着地点を明確にしないワークショップが注目されている。効率的ではないが、効果的な方法であり、予定調和的でない状態が創られる。このように商品としても完成型をリリースするという発想ではなく、完成を目指し続けるという発想に切り替えてもよいのではないか。完成した商品を与えて終わりという一過性の関係から継続的なものへ、所有価値から経験価値へとシフトすべきである。

今、商品が売れない
企業の中の組織も再考が迫られている。単純にトップダウンがよいかボトムアップがよいかということではなく、全従業員が参加する共創型組織を目指すべきである。この形態はすべての関係者が組織の方針を理解し、自発的に行動できる形である。そして誰かがアイデアを出したら、自然にまわりがそれを育てていく組織となる。

今、商品が売れない
仕事の世界だけ見ていればうまくいくほど現代は甘くない。過ごしている世界が狭ければ勘の広がりが出てこない。昔のものとされた飲みミュケーションは一見無駄のように思えるが、これを排除したことで社員間の暗黙知が減少してしまった。ITツールは言語以外の知識や情報を共有化できないため、これまで何となく足並みを揃えられていた状態が急速に失われている。これが組織の柔軟性や機動性を低下させる原因になっていのではないか。もっとオフィシャルに公私混同することで、ビジネス的価値観と生活者的価値観を近づけることができるのではないか。

今、商品が売れない
今求められているのは、
多様な意見を結合したりまとめたりできるハイブリッド型リーダーシップ
前提やフレームから自由になること
そもそも企業は何のためにあるのかという問いから逃げないこと
企業がしあわせを産み出すものとしたら、企業が生活者にしあわせを与えるのではなく、一緒に創りだすもの

2012.02.05記