2006年5月21日 第2回 いわて銀河100kmチャレンジマラソン

50km地点は山の中。これから57km地点の峠に向かいます。

73kmの銀河高原。いっぱいに広がる残雪の峰。

 

JR北上駅からバスで10数分の北上運動公園を4時にスタート。一路雫石総合運動公園へ向かうワンウエイコース。ゴール後は90km地点にあるけんじワールドで入浴可。後夜祭もここで開催される。けんじワールドや盛岡駅までの無料バスも運行されており、移動の配慮はばつぐん。

昨年10月23日に第一回大会が開催されたこのレース。同日に隠岐の島でも第一回大会が開催されてそちらに出走した私は、いつかこの岩手の大会を走りたいと思っていたが、今年は春・新緑に舞台を代えて行われることを知り、迷わず参加することに決めた。

レース前日の5月20日。それまで梅雨に入ったかと思わせる天候が続いた首都圏は、今日は異常な蒸し暑さ。東北・北上に到着しても暑いくらい。明日は久々の暑さとの闘いになるだろうという予感満々(?)。思い起こせば、暑さと闘った前のレースは約1年前の磐梯高原。厳しい一日になるだろうと考えているとき、突然もうひとつの厳しさを発見した。なんと、時計を持ってくるのを忘れていた!フルマラソンでさえ、時計なしで走ったのは一回だけで、ウルトラを走るときは時計が唯一の気分転換グッズと考えていただけに、これはショック。想像するだに恐ろしい一日になりそう。

レース当日、1時半起床。ホテルで準備してくれたおにぎりをもくもく食べていると、スタート会場まで行くバスが迎えに来てくれた。北上運動公園に到着したのはスタート1時間ほど前。実はこの運動公園は北上マラソンのとき一度来たことがある。陸上競技場の周囲にも体育館などきれいな施設が並び、実に良い雰囲気なのだが、ウルトラのスタートがトラックだったのは初めて。雰囲気に呑まれて突っ走ってしまったらどうしよう?

などと考えているうちにスタート時間がせまってきた。
スタートは4時。通常の100kmより1時間早いので、明るいか暗いか心配していたが、スタート前にはすっかり明るくなっていた。しかしまだこの時間は肌寒い。受付でもらったビニール袋をかぶってスタート。トラックを一周半。公園内をぐるぐると4kmも走った後、ようやく公道へ。この時点で既にビニール袋は不要になっていた。さわやかな早朝。時計がないのでペースはわからないが、気分的には早くもなく、遅くもなく。

初めての銀河路だが、何となく初めてという気がしない。
風景もコース設定も実に秋田に似ているのだ。もちろん秋田は稲刈り時、今日は田植え直後という違いはあるが、田んぼ脇の道をたんたんと走るコース。また中間点に大きな峠があり、90km以降にも最後の峠がある。この設定も秋田とそっくり。
そしてエイドには軽く酢の味がするにぎり飯があった。一口サイズのにぎり飯は初めて秋田で走ったときに、この世で一番おいしい食べ物と思ったほど。ここで再び食べることができるとは何という幸福。

50kmを過ぎると、じりじりと勾配がきつくなる。
それほど急坂ではないが、走るにはつらく、かといって歩くには長すぎる。登り坂になると足元ばかり見ながら走る癖があるが、ふと見上げると、雪をいただいた峰々。気分展開に最高の風景だ。気分転換といえば、峠を登りきったところのトンネル。これが実に長い。だんだんと寒くなり、鼻水まで出始めた。それもそのはず、トンネルを越えると、道端にはちらちらと雪が残っていた。去年の参加者にきいたところ、このあたりでは雪がちらついたとのこと。

峠を越えると一気の下り坂。
楽な行程のはずだが、しかし、恐れていたことが発生し始めた。胃が痛み始めたのだ。
スタート時はひんやりしていた銀河路だが、陽が昇ると気温はじりじりと上昇。エイドの度に水分を多く摂っていたが、下り坂で胃袋が上下したことで、去年の夏以来の胃痛が再発したのだ。ここからは正に地獄の走りが続くことになる。

66km付近のレストステーション。準備しておいた缶カフェオーレを飲んだが、おいしく感じられない。水分をあまり摂らないようにしようとも思うが、この暑さではそんなわけにもいかない。73km。目の前に広がる残雪の峰。何とか楽しめた風景はここまで。ここから85kmまでは走りと歩きを繰り返し、だんだんと歩きが増えていく。残り15kmがとんでもなく遠い距離に感じる。後ろからのランナーに次々と追い越されるが、時計がないので残り時間が良くわからない。明日は朝から仕事があるため、今日のレース後はすぐ家に戻らなければならない。

リタイヤしてもいいか。
実に久しぶりにそんな気持ちになった。

ところが、そんなときにある言葉が響いた。
100kmマラソンで唯一リタイヤした「えびすだいこくマラソン」の閉会式の会長さんの言葉だ。
「100kmを走れるという幸運を自分から捨てようというのか!」

天からの声、というと大げさだが、しかし正にそんな声だった。大げさついでに言うと、本当に脳天がしびれた。突然体がしゃきっとし、再び走り始めることができたのだ。ゆっくりだが、これまでのだらだらとした走りとは全く違う、ゴールを目指した走りだった。

90kmの距離表示。
この表示がこんなにうれしかったことはない。交差点のスタッフに聞くと、今は3時5分。制限時間まであと2時間。これはいける。今日もゴールまで走れるのだ。

90kmのエイドでおしるこをいただいた。
みるみる力が沸いてきた。前述のように秋田の100kmと同じく、90km過ぎにもうひとつピークがある。この登りはさすがに歩いたが、それ以外は走った。
走ることは楽しい。しかし走ることは苦しい。そういえばここ何レースかは「苦しい」ことが前面に出ていたように思う。このままでは走るのが楽しくなくなってしまうのではないか。もっと楽しく走れるための努力をしなければいけないのではないか。
そんなことを教えてくれた、貴重なレースだった。

そんなことを考えているうちに、雫石のゴールを迎えた。
前回の富士五湖に続いて、今回もトラックがゴール。さんさ踊りが出迎えてくれる。
体育館で着替えて、17時の送迎バスで90km地点にあるけんじワールドの温泉へ向かう。走りの疲れを癒すには温泉が一番。ほっと一息つくが、今日はあまりゆっくりもしていられない。18時にけんじワールドを出るバスで盛岡駅に行かなければならない。次のレースは絶対に翌日休暇を取るぞ。と心に決める銀河路であった。