


その長寿村から4時スタートで、まずは東の桜井駅へ向かう。その後北へ進路をとり、山辺の道をひた走り、奈良公園。その後一般道を京都まで一路北上。銀閣寺まで行った後、京都御所、西本願寺、東寺を経て、京都駅の南・近鉄竹田駅近くの「力の湯」がゴール。奈良県内約45km。京都約55kmというレース。
まずは、レース1週間前に届けられたコース図に驚いた。コース図ならどんなレースでもあるだろうと思われるかもしれないが、その規模が違う。A3版裏表にびっしり5ページ。25000分の1地図に点線で描かれたコースを走ることになる。
次に驚いたのが、前日の宿泊。
近鉄八木駅近くの長寿村に宿泊するのだが、宿泊というより大広間で仮眠をとる程度。ふとんは無く、座布団4枚をたてに並べ、タオルケットをはおって横になる。当然寝付けず、寝返りばかり打っているうちに朝2時になり、大広間に明かりがつけられてしまった。そして3時には長寿村をチャックアウトしなければならず。スタートの4時までランナーは玄関前で時間をつぶすことになった。
4時といえば、まだ暗い。
防犯灯や懐中電灯を頼りに10km先の桜井駅に到着。ようやく明るくなり始めた。ここまでの道はわかり易く、地図などいらないのではないかと楽観的な気持ちでいたのだが、これが次第にとんでもない間違いだと気づくことになる。
山辺の道。
路地のような道もあれば、登山道のようなところもある。しかも1本道ではなく、複雑に枝分かれしている。分岐点にはチョークで矢印がついているのだが、気を抜くとたちまちコースアウトしてしまうほどの難コース。ある意味この部分も地図はいらない。地図を見ていたら、チョークを見逃してしまう。
何ともラッキーだったのは、このコースに慣れているという「51」番と並走できたことだ。同じコースを使っての305kmレースを走ったことがある五十嵐さんに導かれてこの難コースをクリア。奈良公園の42kmエイドに辿り着いたころからじわじわと暑さが本格的に襲ってきた。
トイレに行っている間に五十嵐さんとはぐれてしまった私は、ようやく地図を片手に走ることを決心。心の準備をしていなかったところの山登りを繰り広げた「山辺の道」から一転して、普通の道を延々と京都までひた走ることになった。
53.8kmエイド。
ウルトラ(普通のマラソンを通じても)初の「どんべえ」をレース中に食す。結構いける。これは癖になりそうだ。今回で3回目のこのレース、昨年は10月中旬に開催されていたのだが、今年は9月の上旬開催。しかも今年の夏は記録的冷夏で、9月に入ってから最高気温を記録することが多いという変な天候。気温はよくわからないが、まず間違いなく30℃は越えているだろう。雲が多く、直射日光が差すことが比較的少ないことだけが救いだった。
61.2kmエイド。
これまでは、奈良と京都の間をつなぐさびしい道が主流だったが、ここからはファミレスやファーストフード店が連なるにぎやかな通りになった。しかし、ウルトラでこんなに人通りが多い道を走ることも珍しい。確実に落ちてきたスピードを取り戻すために、ちょっともったいないと思ったが、コンビニで「南アルプスの天然水1リットル」を購入。飲むためではない。頭から、首から、背中から。とにかく冷蔵庫で冷えた水をふんだんに浴びた。
精神的にも、肉体的にも生き返り、再び走り出す。
しばらくして20分ほど降ったにわか雨にも助けられ、京都の観光地へ突入した。京都には修学旅行を初め、結構来ていると思っていたが、それぞれの寺社がどんな位置関係にあるのかよくわからなかった。バスで巡る観光地を脚でたどることで、ようやく京都が自分のものになりそうだ。そんな気持ちが沸き起こってきた。しかしそれと同時に起きてきたのは、「京都の町はこんなに大きかったのか!」という実感。約80km地点が清水寺。87kmが銀閣寺。京都がゴールといっても、まだまだ10km以上あるのだ。
そんなことを思いながら走っていると、一人のランナーが自販機の横に座っていた。何と東大寺で別れた五十嵐さんだった。再び京都の町を誘導してもらう。銀閣寺近くのエイドで「まだ10数人しか来ていない」との情報を得た。全体で50名ほどのこのレース。結構時間がかかっている私で真ん中より前となると、かなりばらけていることになる。
銀閣寺近くのトイレで再び五十嵐さんと別れた私は、長い長い堀川通りを、まだかまだかと思いながら走っていた。そして何と94.8kmのエイド近くでまたまた五十嵐さんと遭遇。この後、ゴールを目指してペースアップした五十嵐さんに引き離されるのだが、ゴールで3回目の再開。ウルトラではだいたい一度別れた人と再び逢うことは無いのだが、何という偶然だろう。
ゴール近くの鴨川を渡る橋。スタッフが声をかけてくれ、一緒に走ってくれた。暑い一日、走るのは結構大変だったが、少人数のスタッフで、かなりばらけたランナー達をサポートしてくれたスタッフはもっと大変だったろう。関西は少人数の変わったウルトラが多い。お互いにサポートしあい、お互いに楽しんでいる。ウルトラにおける関西のパワーには脱帽だ。そしていつの日か、ウルトラを支えるスタッフにもなってみたい。そんな想いを感じさせてくれる、温かいレースだった。