2003年5月25日 えびす・だいこく100kmマラソン
日本海の奇岩を見下ろしながら、ひたすらアップダウンを繰り返す。
2年越しの宍道湖畔ラン。この直線が精神力をも奪ってゆく。
昨年64kmでリタイヤ。今年上半期の最大の目標としていたレース。
島根半島東端・美保神社から西端・出雲大社までのワンウエイコース。
前半65kmまではアップダウンの多い日本海側を走り、74kmで宍道湖畔に達した後はほぼ平坦コースが続く。前半は車も少なく、カーブに併せて左右にコース取りを変えて最短コースを探す余裕があるが、後半は車の多い国道中心でしかも歩道の無い部分も多い。制限時間(=夕闇)が迫るとやや危険に感じる箇所もあり、疲労も手伝って、90km前後でリタイヤする人が多いのもこのレースの特徴。
全日空のバースデー割引を利用し、格安で米子空港へ。着陸時、明日走る島根半島が右手にくっきり見えた。おお、なんと山だらけではないか。民家は海岸線にへばりついているだけ。昨年体力を奪い尽くしたアップダウンがまざまざと蘇る瞬間であった。
米子空港からは「ウインズ米子」経由で和田浜駅へ。和田浜からJRで境港駅、渡し舟で対岸の島根県側に渡り、町民バスで美保関へ着いたのが15時ちょっとすぎ(境港線の鬼太郎電車や渡し舟の詳細はこちらを参照)。明日は午後雨になりそうとの天気予報を聞き、暑さで気力を失った昨年とは違った走りが出来そうだとの期待が沸いてくる。
スタートは昨年と同じ美保神社前。朝5時半はすっかり明るい。昨年のこの大会で知り合った人と話をしている間に、何時の間にかスタートの号砲が響いていた。海沿いの平坦コースを5km走るといよいよ70kmまで続くアップダウンへ突入。昨年のこのレース以来、「にちなんおろち」「セルフディスカバリー」「えちごくびき野」そして「奥熊野」など、アップダウンに定評のあるレースをこなしていたため、今回のアップダウンは何とかなるだろうと考えていたが、それは大間違い。普通アップダウンというと葛折りの山道を想像するが、このコースは前半真っ直ぐ上り、真っ直ぐ降りる坂道が連続している。山を走ったかと思うと、次の瞬間港町のエイドがあり、また次の瞬間、眼下に海を見下ろす山の中にいるという連続である。
このレースの難所は、30km過ぎから始まる高低差105mのチェリーロード、45kmから始まる高低差152mの島根原子力発電所の山越え、54kmのエイドを越えると始まる高低差148mの横手林道と思われている(思われているという微妙な表現は後半への伏線です。念のため)。昨年はチェリーロードは難なくクリアしたものの、原発山越えで躓き、横手林道ではへろへろになって戦意喪失している。
しかし同じレースを2回以上走るといつも感じるが、前回苦しかった箇所は意外と簡単にクリアできる代わりに、思わぬ場所で苦しむことになる。すなわち、今回一番手前のチェリーロードで結構苦しくなってしまったのだ。こんなところで躓いているわけにはいかない。気持ちではそう頑張ってみるのだが、昨年経験したように大きく息を吸い込むとむせてしまう状態に陥った。昨年以来、結構長距離レースを経験しているから何とかなるだろう。という甘い考えを捨て、やっぱり「えびすだいこく」は日本一厳しい100kmなんだ、と考えなおすと何となく楽になれた。40km。50kmそして54kmの恵曇の着替えポイントまでたどり着く。気持ちでは前向きになっているものの、内臓の状態は思わしくなく、用意したカフェオレを飲み干すのがやっと。そういえば、前回の「奥熊野」から羊羹を食べるもの苦しくなっている気がする。これからは流動食を用意したほうがいいかな。と思いながら横手林道に向かう。
「前回苦しかった場所は意外と簡単にクリアできる」との法則は横手林道にもあてはまった。林道をクリアし、昨年リタイヤした64kmエイドでスイカを食べると、いよいよ未知の世界に突入した。日本海から宍道湖へ向かう急坂を上り、そして下ると、5kmは続いたと思われる平坦直線コースが待っていた。そしてこれをクリアして2年越しの宍道湖畔ランに入るが、これが思いのほかきつい。考えてみるとまだ80km手前だ。日本海のアップダウンをクリアして完走できる気になっていたが、普通のレースであれば、一番苦しい時間帯に差し掛かったことになる。しかもずっと先まで見通せる直線コースの連続。エイドの間隔も開き、私以外のランナーはひとり。ペースが違うので並んで走ることは出来ないが、地元ランナーらしく、先に行ってはサポートカーと待ち合わせて休憩。そこに私が追いつくということを繰り返し、結構気を紛らすことができた。
90km地点を越えると、普通は気分的に楽になるものだが、今回はなかなかペースが上がらない。横手林道から前後して走ってきた地元ランナーには決定的に差をつけられ、いよいよ一人きりになってしまった。宍道湖畔に出てから、歩道を走るところ、車道の路肩を走るところを繰り返してきたが、ここからは車道を走ることが多くなった。しかも再びアップダウンが始まっている。出雲大社まで平坦で行けると信じていただけにわずかな上り坂が非常に負担となる。
そういえば、去年リタイヤした人同士で話をしているとき、「去年は90kmでリタイヤ。今年は95kmでリタイヤ」と話しているひとがいた。何ともったいない。90kmまでいけばあと一踏ん張りではないか。と思って聞いていたが、実際にこのコースを経験してみると、確かに90kmまで行ったからといって楽にはならない。しかも、95kmからの5kmは絶対5kmではないだろう。
小一時間続いたラスト5kmの終わりに近づき、出雲大社を右に見て、いよいよ最後の直線に入った。左手には昨年宿泊し、今年もお世話になる宿が見える。ランナーの休憩所にもなっているその宿からの声援に応えながら2年越しのゴールテープを目指す。
このとき昨年の閉会式の会長の言葉が蘇ってきた。私をウルトラにのめり込ませた決定的な言葉だ。
「100kmにチャレンジできることは実にすごいことだ。そんな幸運を持っていながら、その幸運を無駄にするようなことをしてはいけない。ひたむきな走りがみんなに感動を与えるのだ」
この1年。この言葉に自分なりに応えられるように走り続けていたつもりだ。
少しは前に進むことが出来ただろうか?
これで、これからもウルトラを楽しむ資格が得られたのだろうか?
このゴールは、新しいウルトラの世界へのスタートとなるのだろう。