2005年8月13日 STORMY in CANADA
特徴的な切り立った山を遠くに仰ぎながら、ひたすら登る。
私にはとてもマウンテンバイクで進めない道を延々と走る。
スコーミッシュの街(その1)特徴的な山が映える。
切り立った岩山が、街のすぐそばまで迫っている。
今年の5月にはウズベキスタン(サマルカンドのある中央アジアの国)のフェルガナ盆地で不穏な事件が発生し、また同じ中央アジアのキルギスでも政局が安定しない状態が続く。予定では今年の夏はロシアでマラソンを走り、ついでにサマルカンドを訪ねてこよう、と思っていたのだが、今年も敬遠した方が良さそうだ。と、一転今年は北アメリカを走ることに決めた。
決めたは良いが、どのマラソンを走ろうか、インターネットでいろいろ調べて見たが、どうにも決定打が無い状態が続いた。8月20日Grizzly マラソン(USAモンタナ州)、8月21日イエローナイフマラソン(カナダ)などが候補に上がったが、これまでニュージーランドやスイスの42km超山岳マラソンを走ってきた私にとって、どうもピンと来ない。8月20日Pikes Peak Ascent(USAコロラド州)という4300mの山に駆け上がるレースを発見したときは、これが求めていたレースだっ!と思ったが、今年は既に申込みを締め切ってしまったとのこと。
そんなとき、STORMYを発見!
このレースは、カナダのバンクーバーと観光地ウイスラーの中間に存在するスコーミッシュという街で開催されるレース。「Test of Metal」という有名なマウンテンバイクレースが開催される約64kmの山岳コースでマラソンをしようというもので、参加人数は少なそうだが、公式サイトで参加申込みを行うと、サイト上の参加者名簿にすぐ私の名前が掲載された。この早い対応も気に入った。
ちなみにSTORMYとは「Squamish Test of Runnning Metal, Yeah ! 」の頭文字を併せたものだが、もちろん「激しい」という意味も併せ持つ、気の利いたネーミングになっている。
とりあえずレースには参加できそうだが、不安なのは宿。スコーミッシュの情報は日本ではほとんど得られず、航空券を依頼したHISでも、この街に関する情報はもっていなかった。スコーミッシュのHPで調べると、スコーミッシュのダウンタウンと、レースの会場となるブレナンパークとは約5km離れている。とりあえずダウンタウンに行き、直接現地で宿を探そう。会場近くに宿が無ければ、ダウンタウンから会場まで歩いていこうと開き直ることにした。
8月12日(レース前日)13時。
バンクーバーからバスでスコーミッシュの街に到着。この街は海に面した町だが、すぐそばまで切り立った山が迫っている。先のマウンテンバイクレースや今回のマラソン、またレース時に目撃したロッククライミングなど、アウトドアスポーツが盛んな街で、「Outdoor recreation Capital of Canada」と呼ばれている(名乗っている?)そうだ。また、海と山を兼ね備えたその風貌は、街のどこかに書いてあった「Sea to Sky」は、まさに言いえて妙だ。
心配された宿は、街のインフォメーションセンターで頼むとすぐ確保できた。結構いい宿でゆったり過ごせそう。しかし食事は全くついていないので、明朝の分も含めてさっそく買出しに出たが、これまた街のスーパーで難なく確保できた。
残された心配は、レースの会場までの脚の確保。
ダウンタウンで行われた前日受付で確認すると、やはり会場までのシャトルは無いとのこと。ブレナンパークまでは4kmほどとのことなので、結局歩いていくことにした。しかし、スタートは朝6時。歩いて小1時間かかるとすれば、朝4時半には宿を出発したい。そんな早朝に歩いていけるほど明るくなっているだろうか? 夜9時まで明るいサマータイムは、逆に朝活動したいときのネックになる。
朝4時はまだ暗かった。しかし、歩き始めた4時20分ごろからは山の輪郭がうっすらとわかるようになり始めていたころだった。会場までの道はところどころに明かりがあり、また時間が経過するに従い空も明るくなり始めた。結局これも心配したほどのこともなくクリアできたのだった。
スタートは、ブレナンパークの体育館前。スタートラインなどないのがうれしい。もらったゼッケンは1枚。私はいつもどおり胸につけたのだが、こちらのランナーはランパンの側面に、ゼッケンを小さく折りたたんでつけている人が多かった。けっこうかっこいいので、私もどこかでやってみよう。
このレースは先に書いたように、マウンテンバイクレースのコースにほぼ準じている。だからそれほど極端なアップダウンはないだろうと勝手に予想していたが、そんなことは全くなかった。スタート直後は結構平坦だったがくねくねとした山道であったことから、ある程度スピードを出さないと前のランナーから離されてコースアウトしてしまうという心配があり、結構スピードを出してしまったようだ。エイドの間隔が10km以上離れている20km手前の区間で情けないことにガソ欠になってしまった。当然次のエイドではガツガツと食べまくった。エイドで一緒になった女性ランナーが「sticky cookie ! 」と言って一口でやめてしまったまさにねちゃねちゃしたジャム(?)をはさんだクッキーも心地よくいただいた。
体が軽くなった分、胃はちょっと重くなってしまったが、ともかく30kmの中間点に到着。準備しておいた荷物の中から昨日スーパーで買ったぶどうパン2枚をかじりなから、いよいよ往復20kmの山道に向かう。この山は往きは道幅の広い林道だが、帰りは一転してシングルトラック。石や木の根っこが多く足場が非常に悪い。おまけに本当にこんなところをマウンテンバイクが走るのかと思うような急勾配の下り坂もある。足場が悪い下り坂は大の苦手。ほとんど走れずもたついているうちに、後続ランナーに次々と追い越され、ついに前後に誰も見えない状態になってしまった。
しかし、本当にここがマウンテンバイクコースなのか?
そうだったとしても、バイクから降りて進むのではないか?
と思うほどの狭いしかもくねくねと曲がった下り坂をもたもたと降りているときだった。後ろから何やら金属音が。。。そうマウンテンバイクが降りてきたのだ。彼は、歩いている私でさえ手を使わないと怖くて下りられない坂を、あたかもダウンタウンを走るかのように、実に普通に下っていってしまった。唖然としている私の目の前を、さらに続けて2台のマウンテンバイクが通過。これが同じ人間のやることだろうか?
ロッククライマーが張り付く大きな岩壁が多くなり始めると、木製階段の一気の下り。朝歩いてきた道を横切り、いよいよラスト2kmの声がかかった。後半はほとんど走れなかった分、平坦コースを走る脚は残っていた。しかし、これまで私が体験した山岳マラソンの中では一番厳しいコースだったのではないか。登りより、手を使わなければ下りられない下り坂は脚への負担が大きい。よくまあ脚が持ってくれたものだ、と思いながら走っていると、どんどんゴールが近づいてきた。スタートした体育館の裏にある大きな広場にゴール。完走メダルをかけてもらう。走り終えたランナーたちはリラックスしてゴール付近にたむろしていた。そう、3時からはBBQが始まるのだ。
プールのシャワーで砂ぼこりを落とすと、いよいよBBQが始まった。パンにハンバーグや野菜、ヌードル類を大きな皿に盛り付け、大いに頬張る。厳しいアップダウン続いたため、脚のダメージは100kmを走ったとき並にあったが、胃はまだ丈夫だ。ランナーだけでなく、その家族も含めてわいわいやっている。こんなときはやっぱりビールだろうと思ったが誰も飲んでいない。
そうここカナダでは、公園などの公共の場での飲酒は禁止されているのだった。