2005年4月29日~5月3日 トカラ列島の中の「悪石島」と「中之島」を走る。
中之島の林道で発見した標語。
中之島のヤルセ灯台
「トカラ」。漢字で書くと「吐喝喇」。
正式には鹿児島県鹿児島郡十島村。
鹿児島県の屋久島と奄美大島の間に点在する列島で、北から、「口之島」「中之島」「平島」「諏訪之瀬島」「悪石島」「小宝島」「宝島」の有人7島と、臥蛇島、小臥蛇島、小島、上ノ根島、横当島の無人5島からなっている。人口は全島で1,000人にも満たず、行政上の区分は「最高僻地5級地」。正確な定義はわからないが、これ以上の僻地はないクラスとのこと。
「日本全国島巡り」を開始するにあたり、まずどの島を走ろうかと情報収集しているとき、ブルーガイド編集部が発行している「てくてく歩き」シリーズの新刊「島の旅」を発見!今後私のバイブルになりそうなこの本に、トカラ列島が紹介されていた。
思えば、かなり前に温泉好きの知人から、「トカラ」というとんでもない島があるということを聞いており、なんとなく地図でその位置を確認していた記憶が蘇ってきた。島巡りを志すならば、まずこの島に行かねばならぬ。私の中ではほとんど決定してしまった。
しかし、何しろ「最高僻地5級地」だ。飛行機は無く、アプローチは船のみ。しかも鹿児島から出航する船は週に2便。ゴールデンウイークなどのシーズンは週3便に増便されるものの、日程をきちんと調整しなければ帰って来れないなどの悲劇につながる。
周到に計算した今回の予定は以下のとおり。
4月29日 23:50 鹿児島港発
4月30日 10:45 悪石島着
5月 1日 9:25 悪石島発 12:35 中之島着
5月 3日 7:15 中之島発 16:15 名瀬(奄美大島)着
●4月30日 悪石島 雨ときどき曇り
悪石島のプロフィール
面積7.49平方km 周囲8.8km 標高584m(御岳) 人口82人
10:30ごろ、悪石の港に着いたとたんに唖然。海岸は切り立った崖になっており、港から集落まで行くには既に頭上に見える道まで登らなければならない。途中バイクのお兄さんに誘導してもらいながら、今日の宿「にし荘」へ。荷物を置くとすぐに東の灯台を目指して走り出したが、途中で通り過ぎてしまったようで、ノンゼ岬あたりの牧場へ出た。牛やヤギに見つめられながら走り続けると、行く手には5頭のヤギ一家が。まさか野生のヤギではないだろうから、牧場から逃げ出したものだろう。それにしても牧場にも道にも人っ子一人いない、すばらしい静寂の世界だ。
一旦集落まで戻ってから、島一周(するだろうと思われる)道路を走り始める。かなり急な上り坂が続くが、濃霧のため10m先も見えない。小さい島だから道に迷ったとしても何とかなるだろうとは思いつつも、不安を感じながら手探りで走り続ける。途中T字路に遭遇。右は御岳だが、この霧では山に登っても展望は期待できないし、ちょっと危険だろう。と判断して、港への急な下り坂を選択。しばらく走ると眼下に港が見えた。何時の間にか霧が晴れていた。時間的というより場所的なものだろう。
ちょうど13時に港近くの温泉に到着。走り始めたのは11時頃だったから時間的には短かったが、霧の中、しかも誰にも会わずに走ったために、かなり長く走っていた感じ。砂むし風呂近くには、室内温泉もあった。そこには畳の部屋もあったので、結局夕方までごろごろとしていた。途中、温泉巡り好きの若者もやってきた。どうやら同じ船で上陸したようだ。聞けば明日私と同じ船で島を離れるとのこと。アプローチが難しいことが逆に、島にいるときだけでなく、船の中も含めて時間を共有できることにつながっている。「離島」巡りならではの、楽しい経験である。
●5月1~2日 中之島 雨ときどき曇り
中之島のプロフィール
面積34.47平方km 周囲28.0km 標高979m(御岳) 人口166人
5月1日12時半ごろ中之島港に着岸。大喜旅館の車で宿に送ってもらい、昼食をいただく。しかし、この昼食は夕飯かと思うほど量が多くお腹はぱんぱん。部屋で1時間ほど横になった後、トカラ馬牧場を見に行こうと走り始めた。海岸の集落から牧場へ行くにはまず、くねくねと登る坂でもがかなければならなかった。そして中之島でも登れば登るほど、霧が濃くなっていく。坂を登り切ると、驚くほどの直線道路が続いていたが、これも霧で見通すことはできず、この日はトカラ馬も見ることはできなかった。
この日の目的地は海遊倶楽部。
実は、4月29日の鹿児島港で同じ会社の一家と出会ってしまった。この時期、毎年中之島で過ごすとのこと。トカラ列島など誰も知らないだろうと思っていたが、まさかこんな身近な人にトカラで逢うとは思わなかった。そして、この一家が過ごす海遊倶楽部に顔を出すとの約束を果たすために、濃霧の中を走っていた。走りながら、明日にすればよかったかなと思ったが、明日が今日より良い天気である保証は何もない。
海遊倶楽部では麦茶とコーヒーをいただき、息を吹き返すことができた。
思わぬ楽しい時間を過ごしたあと、来た道を戻る。帰りは下る一方で実に快適。下るごとに視界が開けてくる。宿に着くと、シャンプー・石鹸を貸してくれた。もちろん温泉に直行だ。宿の近くにある東温泉は、イオウの匂いがする温泉らしい温泉。入り口の見た目からは想像できないほどきれいな温泉だった。
温泉に入って、宿でごろごろする。何と贅沢。
5月2日 雨
8時半から中之島一周に挑戦開始。
しかし、一周できると思っていた中之島だったが、昨日の夕食時にヤルセの灯台から大喜旅館に続く道の一部が落石のため不通になっているとの情報を得た。そこで予定を変更し、御岳を右回りに半周した後に、ヤルセ灯台を往復し、最後は昨日も走ったトカラ馬牧場をつっきってかえることにした。
しかし、御岳の一周は思いのほか時間がかかり、途中雷もごろごろしてきた。雨も強烈に降る時間帯もあったが、避難できるスペースはどこにもない。開き直って走り続けていくと天気は良くなったり悪くなったり。空が暗くなると気持ちを暗くなり、空が明るくなると気持ちも明るくなる。ヤルセ灯台へ向かうときは暗い気分だった道も、帰りは不思議と気分が軽くなっていた。宿でつくってもらったお弁当を歩きながら食べる。お腹も心地よくなってきたときに、何と2人連れのハイカーに出会ってしまった。
朝から走り、車とは3台ほどすれ違ったが、人と出会ったのは初めて。しかも、お箸を使いながらお弁当を食べている状態で、人と出会うのは恥ずかしかったが、相手も驚いたろう。
最後のルートはトカラ馬牧場。昨日より幾分霧はましで、馬も見える距離にいた。
さあ、今日も温泉に直行しよう。癖になりそうなトカラ中之島だった。